深山町在住の人間でも相当古くから土地に住んでいないと知らない場所というのはある。柳洞寺裏手の森の奥に広がる無縁墓地もそういった場所の一つだ。衛宮士郎がそんなものの存在を知ったのは聖杯戦争が終わって、そして全ての後処理が終わってからのこと。町中に醜い爪あとを残し、そしてそれに関わった人間たちの心にも多くの傷跡を残したあの戦いからちょうど一年が経過した冬のこと。二月半ばのある日、衛宮士郎間桐桜と連れ立って無縁墓地に人知れず葬られた、間桐慎二の墓参りをした。


「……」
「……」


 荒涼として、どこか寒々しい雰囲気の無縁墓地。慰霊碑こそあれど、そこに間桐慎二の名前は刻まれていない。慎二は死んだ。桜が殺した。それは今更拭いようのない事実で、桜が罪の意識に苛まれていることも知っている。そんな彼女を見るたびに、士郎は痛ましく思うと同時に、慎二に対して憎しみともつかない感情を覚えるのだった。
 もちろん士郎が慎二のことをはっきりと恨んでいるとかそういうわけではない。生前の慎二は桜を虐待し、陵辱していた。そのことを思えば死んで当然と思ってしまうのも、年頃の少年としては普通の思考回路である。けれど、慎二がまだ自分の親友だったころのことも覚えている。ちょっと癖のある性格をしていたけれど、不正を好まない人柄で、いいやつではなかったかもしれないけれど、悪いやつでもなかった。
 慎二は死ななければならないほどの何かをしたのだろうか。そんなことを時々思うが、けれどそれを口に出すことは絶対になかった。そんな言葉は桜を追い詰めるだけと知っているから。罪を憎んで人を憎まずというけれど、そんな聖人のような心境には至れそうにもない。隣で慰霊碑に向かって手を合わせる桜を見ていると、そんな心地になる。
 士郎は桜よりも少し早く手を合わせるのをやめていた。生きていた頃も桜を悩ませ苦しめていた間桐慎二は、死んでなお桜に辛そうな顔をさせる。士郎自身の感情としては、慎二は死ぬほどの人間ではなかったと思う。けれど桜のことを考えれば、正直なところ死んでよかったと思わないこともない。


(こんなこと絶対に言えないよな)


 士郎は相変わらず慰霊碑に手を合わせ、ぴくりともしない桜の背後に回って、その細い肩を後ろから抱いた。その瞬間だけ桜は少し身じろぎをするような反応を見せたが、背中を士郎の胸に預け、肩から少し力を抜いたようだった。
 士郎は空を見上げる。曇天の空に雲は風に乗って物凄い早さで流れていった。墓地脇の森でがさがさと木々が風に揺れる。舞った枯葉が足元に飛ばされてきて、かさりと音を立てた。御影石の慰霊碑は磨き上げられた表面がつやつやとして、しかしそれが妙に寒々しい。息を吐くと白くけぶる。世界に自分と桜しかいないのでないかという錯覚は、時々彼女と二人でいい雰囲気になったときにも覚えるものだが、今感じた感覚というのは酷く頼りなくて、一言で言うと「寂しい」と、そんな感情だった。
 ふと気がつくと、桜は慰霊碑に向かって合わせていた手を解いて、自分の肩を抱く士郎の腕に重ねていた。後ろから横顔を覗き込むようにすると、相変わらず静かにまぶたを閉ざしている。一瞬眠っているのではないかと思いたくなるほど、その表情は穏やかだった。しかし次の瞬間、その閉ざされた瞼から涙がこぼれ落ちて、士郎は何とも言いがたい感情を抱えたままに、桜を抱く腕に力を込める。


「先輩……」
「なんだ?」
「―――わたしが許される日は、来るんでしょうか」
「……それは」


 ここで言葉に詰まってはいけないというのは分かっていた。けれど早々ここぞという場面で適切な台詞がするりと口をついて出るほどには士郎は世慣れていない。言葉に出来ない心を誤魔化すように、桜を抱く腕に力を込めた。俺が許すよ、とか。そんなことを言ってやればよかったのかもしれない。そう思っても後の祭りで、桜もただ士郎の腕にすがる指先に力を込めただけだった。
 幸せになりたい、と。
 そんなことを切実に思う。誰もが抱く憧れは、誰もが抱くだけあって甘美で、誰しもに手に入れる資格があるはずなのに、だというのに実現は困難そうに見えた。ただ好き合っているだけで幸せになれたら、それこそどれだけ幸せだろう。士郎は桜を正面から抱きなおし、場所柄不謹慎だとは自覚しつつも、桜の唇に己のそれを寄せていった。
 触れ合うだけの口吻を八秒間。唇を離すと桜の涙はもう止まっていて、その頬は寒さのせいだけではない彼女色に染まっていた。改めて士郎は桜を抱きしめると、その耳元で囁く。幸せにするから、なんて。
 罪を忘れろなんて言えない、罪を償えとも言えない。その二つの言葉はあまりにも安易で、だからこそ生きていくには辛すぎる。士郎は桜を抱きしめて、罪を抱えたまま生きていったらいいと思った。その罪の重さに折れそうなときには自分が支えるから。だから一緒に生きて、きっと幸せになろう。そんな想いを、そんな夢を抱く。
 二人はもう一度だけキスをすると、手を繋いで無縁墓地を後にした。この無縁墓地には間桐慎二の他にも聖杯戦争に巻き込まれて“行方不明”になった人々が葬られている。行方不明になった人間など本当はいないのだ。いなくなった人間はみんなここに眠っているのだから。そのうちの半数近くは間桐桜によってもたらされた死である。そのことを思えば、この無縁墓地というのは二人にとっては辛すぎる場所だと言える。それでも毎年のこの時期に、これから先も二人がここを訪れないということはないだろう。死者に詫びる気持ちもないではない。死者に許されたいという気持ちは隠しようもなく溢れている。ただ罪が許されることはきっとないだろうし、詫びたところで呪詛の言霊以外に帰ってくる言葉はないと思うから、桜と士郎はきっとこの先ここを訪れたところでそれは、己の罪を再確認して、重い荷物を背負いなおして……、そんな自傷行為に過ぎないのかもしれない。


「桜」
「はい」
「幸せにするから。一緒に、幸せになろう」
「―――はいっ」


 大きく頷いて、繋いだ手に力を入れた。罪の意識の分だけ優しくなりたい、優しくなれたらと思う。幸せの定義は曖昧で、それでもその言葉に縋りつきたいと思う。そんな二人に自分がなっていいものかどうか、そのことは桜には分からない。けれど今は、自分を大切にしてくれる人に縋って支えられながらでも、苦しんで生きていこうと思う。そう思うくらいのことは、こんな自分にも許されると思いたい。
 やがて曇天の空からひらひらと雪。その白さが切なくて、桜は繋いだ手を解くと士郎の腕に抱きついた。頬に掛かる髪、鼻先に雪の冷たさ、空気は槍で風は刃。そんな中で胸に抱いた愛しい人の腕だけが暖かかった。
 最後に二人はもう一度だけと、雪の降る下で唇を合わせる。その背後では人影無い無縁墓地が少しずつ、あの日に消えた冬の少女のような銀色に覆われ、冷たさの下に隠されていこうとしていた。

何でか酒を飲んでいる僕は駄目人間。
そんな僕がこんな状態ですいむそーとかやるともう大変、アリスでやってなかなか勝てない苛立ちをコントローラー様にぶつけたりする。


コントローラーさま、ご無事ですか?
コントローラー「い、痛いではないか。こんなプレイもたまには悪くはないが、度を過ぎると怪我をするだけだ。ソフトSMを気取るならもっとこう痛気持ちよく嬲る方法をだね」
すいませんコントローラーさま、僕が不勉強でした。


というような幻覚が見える。
別に薬をキめているわけではないのでご安心を。
お酒程度ではそこまでハイになれんぜガハハハハハー!
そんな勢いのまま下でリクエストをもらった桜なお話を書いたぜ、これが酒の魔力。

 旭の腕に抱きつくようにしていた朝霧だったが、結局「歩きにくい」という無体にして納得の出来る抗議を受けて兄の腕を解放していた。弁財天のお社でのお参りを済ませた後も名残惜しげに自分の腕に視線を送ってくる朝霧を、旭は手を繋ぐことで誤魔化す。とはいえ普通に手を繋ぐだけでは満足がいかないようで、指を絡め合わせるようにして繋ぐことを強要されていた。


(腕を組むのは恥ずかしいから嫌なんだけど、こういうのならアリかな)


 こんな手の繋ぎ方、ある意味腕を組むよりよっぽど恥ずかしいのではないだろうか、というのが世間一般の目だろうが、それをしてこう思える旭というのもどこか一歩外れている。
 弁財天の社では二人でお参りして、お賽銭も二人一緒ということで五百円を投げ入れた。本当はお賽銭くらいは二人別々に、と朝霧は思っていたのだが、小銭がなかった旭が「二人のことだろ?」なんて甘く囁いて誤魔化したのだ。特別バチ当たりというほどでもなかろうが、そのバチはもうすぐ当たる。
 弁財天への参拝の後も二人は参拝順路に従って七社大社の境内を散策した。参拝順路は円環状になっているので弁財天のお社を出たあとは入り口の大鳥居の前まで戻るコースになる。大鳥居をくぐった先には十字路になっていて、左に折れれば恵比寿にお社、右は弁財天のお社からの帰路、折れずに直進すると七社大社自慢の桜庭園となっているのである。


「少し虎刈りみたいになってますね……まだまだ七分、いえ、六分咲きくらいですか?」


 桜庭園に入るなり朝霧は言った。多少残念そうな顔色を浮かべてはいるが、満開でないことなど始めから分かっていたことである。


「ん、そうだね……。でもこのくらいなら週末の桜祭り本番には満開になるんじゃない?」
「だといいですけど。朝霧たちって毎年どの辺りに席とってましたっけ?」
「えー、と。あ。あっちだよ多分。ほら、あのベンチ、去年酔い潰れた朝霧をあそこで看病したんだ」
「もう、旭さんたらそういうことばっかり覚えてるんですから……」
「そりゃそうだよ、酷かったもん朝霧の酒癖。弱いくせに酔うのは好きで飲みたがる。それに加えて絡み酒なんて、将来嫌われるんじゃない?」
「旭さんも、そんな酒癖の悪い女は嫌いですか?」


 少ししゅんとした様子で尋ねる。


「いや、俺は別に。だって朝霧の酒癖の悪さなんて今更じゃん」
「もう……!」


 膨れる朝霧である。
 平日の桜庭園内は閑散としたもので、二人以外には参拝や、あるいは散歩で訪れている人間も殆どいなかった。まだ満開になっていないというのも理由としてはありえる話だが、それよりもあの長い石階段を思えば散歩のついで程度でここまで上ってくるのはやはり骨なのだろう。
 六分咲きと朝霧が評した桜たちは、しかしそれでもその本数によって双子の兄妹を圧倒した。桜庭園にはその名通り桜の木しか植えられていない。どこに目を向けても桜、桜、桜。白色に近い薄紅の花弁が咲き誇り、そして舞い散るその様は、見ているだけで心に訴えてくるものがある。二人はしばし話すのも忘れて、しかし繋いだ手はそのままに庭園内を歩いて回った。
 風に揺れる桜の木々はザザザと小波が打ち寄せるような、耳に優しい音を立てる。その音に耳を寄せ、時折朝霧の髪に降りかかる花弁を払ってやったりしながら、旭は確かに今日ここに来たのは正解だったと思い始めていた。旭は所謂「花より団子派」である。朝霧の場合団子ではなく花見酒になるのだが、どちらにしてもこの二人がお花見をすれば、桜を愛でるよりも宴会の方にこそ気を向けてしまうのだ。こんなにゆっくりと、穏やかな気持ちで桜を楽しむことなんて殆ど初めてかもしれない。肝心の桜が満開でないのが少し残念だが、しかしここの桜が満開になってしまえば、花見客でごった返してどっちみちこんな長閑な気持ちに浸ることはなかっただろう。
 サクサクと鳴る足元の砂利を踏みしめ歩きながら、旭はふと隣を歩く妹に目を向けた。朝霧は目を細めてこの景色を楽しんでいるように見える。普段どちらかというとキッと辺りを見据えていることの多い朝霧の目つきは、今ばかりは優しげにも感じられた。


(家の中にいるのとも違う……。二人でいるから、というだけでもなそうだけど。桜の花に囲まれているから? いや―――)


 旭はそこで思考を打ち切った。折角こんなところまで来てしがらみのない二人の時間を楽しんでいるのに、わざわざしがらみに思いを向けることもないだろうと思ったのだ。
 朝霧、と小さく呼びかける。呼びかけられた朝霧は旭の小さな声にも関わらず聞き逃すことなく「はい?」とこちらに顔を向けた。優しげな穏やかな顔つきで振り向いた朝霧に、旭は噴き出す。鼻の頭に桜の花弁が乗っかっていた。いきなり噴き出して笑う兄に、わけも分からず憮然とする朝霧。旭は、けれどやっぱり笑いをかみ殺すことが出来ずに笑い顔のまま、朝霧の鼻の頭にのった花弁を退けてやった。


「もう……笑う前に取ってくれたらよかったじゃないですか」
「ごめんって、だって、なんかお間抜けでさ」
「お間抜け……酷い言い草です」
「はは、いやいや、そんなお間抜け朝霧も可愛かったよ?」
「可愛いと言われて褒められてる気がしないのは、きっとそれが褒め言葉じゃないからでしょうね?」
「滅相も無い」


 歩く内にやがて二人は桜庭園も一周、一通り見て回ってしまっていた。六分咲きの庭園でも見応えはそれなりにあったし、そこそこに歩き疲れて二人は旭いわくのところ、去年酔い潰れた朝霧を看病したベンチに腰をかける。そこで朝霧は肩から掛けていた鞄を取り出し、中から方形の包みを出してきた。


「それは?」
「お昼ご飯……というには少し軽すぎるかもしれませんけど、サンドウィッチです」
「へぇ、芦屋さんそんなの用意してくれたんだ」
「えっと―――、」
「うん?」
「あ……、飲み物ありますよ?」
「? ありがとう」


 なぜか歯切れの悪い朝霧に疑問の表情を向ける旭である。このサンドウィッチ、旭は問答無用で芦屋の手の物と決め付けたが、実際には朝霧の手になるものだ。
 これ、朝霧が作ったんです―――。そう素直に申告して感想を窺うには朝霧はまだ料理経験が薄すぎで、自信がない。思わず本当の製作者を誤魔化して、反応だけ盗み取ろうという姑息な手段に出た少女性は微笑ましくもある。ところが目は口ほどに物をいうもので、朝霧はサンドウィッチに手を伸ばし、それを口に運ぶ兄の一挙一動を凝視してしまっていた。そこら辺も含めて微笑ましいと言えば微笑ましい。そしてそんな妹の様子に気づけない兄の鈍感さも以下略だ。


「はむ、むぐ……」
「ど、どうですか、お味の方は」
「むぐ、ごく……うん、普通に美味いと思うけど? 流石に芦屋さんだな」
「そ、そうですか―――ほっ」
「ほっ?」
「えっ、あっ、いえ! なんでもないです!」
「そ、そう?」
「ええ、なんでもないんですよ、ほんとに。それじゃあ朝霧もいただきますね」


 無理やり誤魔化して自分もサンドウィッチに手を伸ばす。口に運んだのはオーソドックスな卵サンド。炙ったパンの表面にはガーリックバターが塗ってあって、それがまた卵のふんわりした食感に、しかし香ばしい風味を与えている。
 ガーリックバターは市販品で、具の卵も芦屋に言われるままに作ったものだが、我ながら悪くない味わいだと思う。だがサンドウィッチが多少美味く作れたくらいで慢心するつもりはない。目指すはフルコースを自分の手で旭にご馳走することだ。決心を新たにハムサンドに手を伸ばす。こちらも悪くない。
 桜の木の下、朝霧にとっては嬉しくない思い出のあるベンチで二人の軽い昼食は進む。そのさなか、


「俺としてはこのポテトサンドがお気に入りだな」
「ああ、それはチーズが入ってるんですよ」
「そうなのか? ていうかお前まだこっちのポテト手ぇつけてないのによく分かったな?」
「え? あっ―――、その、はいっ、だってほら、切り口からチーズが見えてましたからっ」
「そうか?」


 なんて一幕も演じられたり。朝霧は(というか、割と好評なようですし、朝霧が自分で作ったんですよ、って言ってもいいんじゃないでしょうか)などと思ったりもしたが、結局は黙っておいた。どうせならサンドウィッチのような簡単なものじゃなくて、それこそ目標にしてるフルコースくらいのものをいきなり作って見せて驚かせたい。そういった発想も実に少女である。





 昼食後、二人は予定通りに人形店へ行くでもなくまだベンチに座ってのんびりとしていた。朝霧がバッグから取り出した水筒には紅茶が入っている。これも朝霧が手ずから淹れたものだ。それを啜りながら何となく立ち上がれずにいたのである。
 目の前に限らず周囲を三六〇度埋め尽くす桜の森。ひらひらと柔らかく地面に落ちる薄紅の花弁を見ていると、朝霧は次第に重くなってくるまぶたを自覚した。満腹というわけではないのにそうなってしまうのは、きっと辺りがあまりにも穏やか過ぎるからだろう。
 無音に近い桜庭園で音を奏でるのは近くの桜が風に揺れる音と、遠くで小鳥が囀る声だけである。小高い丘の上にある七社大社の境内には、石階段下の俗界の物音は届かない。目に見える範囲に人影はなく、世界に桜と自分と、そして旭しかいなくなってしまったのではないかという、幸せな錯覚。


(いつまでもこうしていたい……でもそういうわけにもいかないんですよね)


 それに、なんだかんだで人形専門店で買い物もしたいのだ。朝霧は「そろそろ行きましょうか」と旭に声を掛けようとして、兄の側を振り向こうとした矢先に肩へ柔らかい衝撃を受けた。


「あ、旭さん?」


 旭は朝霧の肩に頭をもたれて居眠りを開始していた。呆れて起こそうとして、しかし思い留まる。そういえば昨日は遅かったと言っていたし、この状況、自分の肩にもたれて旭が眠っているというこの状況は、以前朝霧が環境ビデオを借りてきてまで再現しようとしたあの状況と同じではないか。
 朝霧はクスリと笑って身体をずらした。旭の頭はずれ落ちて、妹の太ももにおさまる。


「膝枕再び……です」


 なんて呟いてみたり。
 膝の上で安らかな寝息を立てる少年の顔は自分のそれと同じ造形だ。もちろん細部を見れば男女の違いはある。それでもやっぱり旭の顔は朝霧のソレと瓜二つなのだ。以前に朝霧は旭への好意を一人の信頼できる先輩に打ち明けたことがある。その人物は朝霧に対して「双子の兄が好きって、そりゃまた凄いナルシズムだね」等と言ったが、それでも彼女は朝霧のことを特別蔑視したりとかそういうことはしなかった。自分と同じ、しかし愛しい顔の頬を撫で、髪を梳き、朝霧は幸せそうな吐息を漏らした。
 ―――弁天さまにお参りしたご利益、かもしれませんね。
 桜の庭園を手を繋いで歩いた、手作りのサンドウィッチ食べてもらえた、そして今こうして膝枕している。これが弁財天のご利益だというなら毎日とは言わないまでも、月に一度くらいは参拝してもいい。そんなことを思って朝霧は自分の頬を抓って意識の覚醒を促す。折角旭が自分の目の前で無防備な寝顔を晒しているのに、それを眠って見逃すなんて、そんなもったいないことは許されない。もったいないお化けが出ても言い逃れも出来ない。





 三十分後、旭は憮然とした顔で起きた。朝霧も憮然とした顔をしていた。旭が起きたのは朝霧の花粉症のくしゃみの直撃を顔面に受けてのものだったからだ。顔中朝霧のつばと鼻水まみれにされたら、そりゃあ旭だって憮然とするだろう。朝霧にしてみれば、折角の素敵な時間がこんな形で終わってしまったのだから、それはもう物凄い勢いで憮然とした表情にもなる。


「今度来るときは旭さんもちゃんとお賽銭しましょうね」
「ああ……」


 そんなことを言いながら蓮淵兄妹は二人だけのお花見を終えた。

ついカッとなって以下略(ぉ
ぶっちゃけクラナドSSである必要がない上に、作品を楽しむというよりはむしろ書き手のあほっぷりをあざ笑うための文章になっていやしないだろうかなど、反省点多数発生。
こんなものが久しぶりに書いたクラナドSSかと思うと正直泣きたくなるけれど、なんだか酷く満足してる僕がいるのも確かなんだ―――。

 俺の一日はことみのおっぱいを愛でることから始まる。
早朝、午前五時半。ことみの起床時間からはまだ一時間ほど早いこの時間に俺は目覚める。目覚まし時計とかそんな軟弱なものには頼らない。この起床は最早生活リズムとかそんな甘っちょろいものではなく、本能に刻み込まれたものであって、半ば“自動化”された行為、或いは現象なのだ。
 目が覚めると俺は伸びをしたり欠伸をしたりする前に、まず気配を殺す。息を潜め、身じろぎ一つしない。まぶたを開き、天井の染みの数を眼球運動のみで数えながら意識の覚醒を促す。
それが済むと、ゆっくり、ゆっくりと慎重に身体を動かしてことみと一緒のベッドから抜け出すのだ。足音を立てないのは当然、出来れば呼吸もしたくない、鼓動を止められたら最高だ。だが俺も人類、ホモ・サピエンスである以上流石にそこまでは出来ないので気配を殺すに留める、なんとも歯がゆいことだ。
 気配を殺したまま移動し、ベッドサイドのミニテーブルに置かれたエアコンのスイッチを手に取る。暖房の設定温度は26℃。これ以上だと暑いし、これ以下だと素肌を晒していて肌寒さを覚えてしまう、理想の気温だ。この理想の基準はことみの体感温度を基準としている。今まで観察結果により弾き出した最適温度だ。
 さて、部屋が暖まったら俺はまた気配を殺しベッドに戻る。衣擦れの音すら立てないよう、細心の注意を払って布団をどかす。そして露になるのは熊柄の可愛らしいパジャマにくるまれたことみの寝姿。呼吸に合わせて上下する胸は豊かにパジャマを持ち上げ、その頂上に浮かぶ僅かな膨らみ、乳首の存在が俺を狂わせる。
 そして俺はベッドに上がるのだが、この朝の日課を為すに至る行程の中でもっとも緊張するのがこの瞬間だ。何故ならことみと俺が使っているベッドは無駄にクッションがいい。ひざをのせればボスッとめり込むし、身体をのせればベッド上の水平が失われる。まだ俺がひよっこだった頃はこのクッションの良さが仇となってベッドから抜け出す瞬間を悟られたり、或いはベッドに戻る瞬間を捉えられたりしたものだ。
 しかし今の俺は歴戦の猛者、謂わば密林の豹。獲物を狙う獣が如く息を潜め、しかししなやかな動作でベッドに舞い戻る。体重移動の調整はミリ単位の挙動だ。ベッドの上の起伏、足場となるクッションの状態はその日のことみの寝相に大きく左右される。厳密に言えばベッド上のコンディションは一日として同じ状態などない。もちろんそれはことみの寝相が悪いとかそういう話ではなく、毎日毎日寸分違わぬ位置に寸分違わぬ姿勢で眠っている人間など存在しないという意味での話だ。寝相に関して言えばことみの寝相は十分良いほうに入るだろう。


(どうせならいっそ寝乱れてパジャマのボタンが上から二つ目くらいまで外れてくれているとか、そういう寝相なら楽だったのに…)


 ―――そんな風に考えていた時期が、俺にもありました。
 それはまだひよっこだった頃の発想と願望で、今の俺がかつての俺に遭遇したら、今の俺は明らかな蔑みの笑みを浮かべて過去の俺を見下すだろう。ことみのおっぱいは、宝だ。俺だけの宝だ。寝乱れるだと、馬鹿馬鹿しい、ことみの寝相がそんなに悪いのではもし何かの間違いがあってことみが誰か男性と同室で眠るような状況に陥ってしまったとき、その誰かにことみのあの豊満で、柔らかく、すべすべとして、白く、まぶしく、清らかで、そして淫らなあの乳を―――! その誰かに見られてしまうかもしれないだろうが!
 おっと、少し熱くなってしまったな。だがあえてもう一度言おう、ことみのおっぱいは宝だ。そしてその言葉に一言付け加えたい。ことみのおっぱいは、俺の、俺だけの宝だ。例え世界が滅びても、例えこの身が滅びても、それだけは譲らない。絶対に、絶対に。
 俺は首を振り振り作業に戻る。もちろん「首を振り振り」というのは比喩だ。戦場での俺は一切無駄な挙動をしない。その挙動には脳の思考活動も含まれる。先ほどつい熱くなってしまったのはここ数週間で稀に見る失態だ。ことみのおっぱいを目の前にして愚にもつかない思索に心奪われるなど、この俺も求道者として修行が足らない。 
 あくまで慎重な動作でことみに跨った。馬乗り、マウントポジション、そんな言葉で表される体勢になる。位置はだいたいことみの下腹部の上空あたりに尻をもってくるのがベストだ。
 フッと息を吐き出したのはコンマ以下の秒数。スゥッと息を吸い込んだのもそれと同じ。そこで俺の呼吸は止まる。無音、静寂の室内には窓の外で囀る小鳥の鳴き声も届かない。パジャマの第一ボタンへと伸ばした指先は、ボタンに触れる直前で一切の震えを排除した。オートメーションファクトリーの全自動作業機械の如き精密かつ俊敏な動きで文字通り息をつく間もなく第一ボタンが外された。
 俺の足の下。横たわることみの上半身を這う視線は赤外線でも捉えているのではないかと錯覚するくらいに彼女の体の起伏の一切を読み取っていく。パジャマの皺の一つでさえ計算対象だ。フル回転する脳は、しかし熱暴走を起こさない。芯の分だけは冷静に、そして冷徹に冷え切っている。このクールさだけは失うわけにはいかない。
 今やパジャマのボタン外しにのみ特化された思考回路は弾き出した計算結果を全身神経に伝え、指示を受け取った運動神経はあらゆる筋力を寸分の狂いもなく操作していく。胸の起伏に持ち上げられた第二ボタン、周囲による皺を完全に回避してことみの肌には触れられたという感触さえ与えずに侵食していく俺の十指。ことみがみじろぎをした。右側へ二十三度身体を傾け銃身を調整、ベッドの凹凸の具合は中立ちになった膝から下の触覚神経が教えてくれる。ことみの身じろぎに合わせて俺も体勢を調節し、しかしその間も指先だけは止まらない。
 第二ボタンが外れた。そして露になる胸の谷間の絶景に、俺は神と今は亡きことみの両親への感謝の念を禁じえない。きっとグランドキャニオンの大峡谷を観光しても、これほどの感動は得られないだろう。不意に涙腺が緩みかけ、俺は慌てて顔面神経に力を入れた。もはや悪鬼と化した形相で第三ボタンに挑みかかる。
 第三ボタン、第四ボタンと制圧していくと残すは最後、一番下のボタンだけとなった。既におっぱい美峡谷はその全貌が明らかになり、可愛らしいおへそのクレーターも露になっている。大いなる二つの丘の頂上、天上の美の女神に捧ぐ二つの祭壇こそ未だパジャマという名の神秘のヴェールに覆われ拝謁することが叶わずにいるが、それも今だけのこと。残す最後のボタンさえ外せば仰向けに眠ることみの身体の前面はガンダムF91のフェイスマスクの如くオープンするだろう。感覚が加速する。獲物を目の前に捕らえた俺の指先は悪夢のように動き出し、そして最後のボタンに指を掛けた。


 ―――っ


 それは、音も無く―――。
 最後のボタンが外れた。音も立てず、肌にも触れず、皺の一つさえ動かさず、まるで神隠しにでもあったかのようにことみの上半身を守っていた最後の砦は消失していた。伸ばした指先はまだことみの身体の上、体表から僅か二センチメートルのところで硬直している。限界を超えた精密動作に筋痙攣さえ起こしそうだ。俺はそれを理性と信仰(※おっぱいへの)でもってねじ伏せ、しかし肉欲に滾りいきり立つ陰茎はそのままに、愛しい彼女の上半身を白日の下に晒したのだった。


「―――っ、―――ぁ」


 思わずして呻きがもれた。
 それは、眼前に現れたそれは、白い、白い―――。
 それは、柔らかく、丸く、重力に逆らって天を目指し―――。
 それは、例えるなら、けれど、俺はそれを例えるだけの言葉を持たず―――。
 それは、それは―――、ただ、愛しいそれは―――。


「っ……」


 俺は溢れ出した涙に慌てて目を塞ぐ。この場で涙が零れ落ちたなら、その水滴はことみの肌で弾けて彼女の覚醒を促してしまうかもしれない。それだけは許されない。だというのに後から後から零れ落ちるこの涙はどこから来るのか。勃起していた陰茎は、いつのまにか主を目の前にした忠犬のごとく頭を垂れていた。
 おっぱい。それは偉大なる双子の山。それを崇拝する心を、人は双子山シンドロームというらしい。もし俺が登山家だったなら、この目の前の二つの山を踏破せずにいられるだろうか。
 そう考えて俺は即座にその考えをかなぐり捨てた。踏破だと? 愚かしい。この美しき双子の山を、あろうことか踏み破るだと? あり得ない、そんな暴挙は認めない。もし俺が転生したならば、そうだ、俺は守り人となろう。この神聖な双子山、おっぱいという名のその神域を俗人から守る、守り人となろう。そして生涯そのおっぱいを眺めながら暮らすのだ。そんな幸せな人生が他にあるだろうか。
 世界は美しい。
 ことみの両親の残したその言葉は正に至言と言えるものだろう。そうだ、世界は美しい。そしてあなたたちの愛したこの世界に生きるあなたたちの愛娘は、その言葉をその身をもって理論のみならず体現してみせる、まさに世界の愛娘だと言えるだろう。そんな少女に愛を捧げる資格を、俺みたいなうだつの上がらない人間に与えてくれてありがとう。この謝意を誰に向けたらいいのかは分からない。ただ言いたかったんだ、ありがとう、と。そんな気持ちを、ことみのおっぱいを目の当たりにする度に覚えずにはいられない。
 ふと時計を見る。そろそろタイムリミットだ。毎朝訪れるこのタイムリミットは、そろそろことみが起床する時間だということ。毎日のことにも関わらず、この瞬間に胸に去来する何とも言いがたい喪失感は、まさに筆舌に尽きない。俺は最後にもう一度だけことみのおっぱいに視線を落とす。柔らかく盛り上がった白い乳房。その乳房の大きさにも関わらず、小さく丸く、愛らしいシルエットの乳輪。夜毎の性交に耽ろうとも、いつまで経っても色を変えない薄紅色の乳頭。


「……」


 無言のままに俺は両手を合わせた。目を閉じて祈りを捧ぐ。神よ、どうか今日も素晴らしい一日であらんことを。そして願わくば、ことみとそのおっぱいをあらゆる苦難災難から守り給え―――。
 馬鹿にされるかもしれないが、俺は一日の安全の祈願をキッチンの神棚ではなくことみのおっぱいにしている。神棚におわす恵比寿や大黒には申し訳ないが、俺にとってはことみのおっぱいこそが守るべき唯一の信仰なのだ。そして祈りの内容はどこまでも真摯、祈りを捧げる心根もどこまでも神聖だ。おれは約一分の瞑目を終え、そして目を開く。ことみはまだ起きていない。俺はそそくさと、しかし祭典に使用した神具を宝物殿に戻す祭司のごとき手つきでことみのボタンを元に戻していった。
 きっちりパジャマを元に戻すと、ことみの肩までちゃんと毛布を掛けてやる。それから布団の横に潜り込み、その寝顔を彼女が目を覚ますまで観察するのだ。無防備なその横顔に俺は彼女を愛する気持ちを再確認し、そしてまた一日が始まる。目覚まし時計がやかましい音を立てる少し前に、習慣的に目を覚ましてしまうことみに向かってにっこりと微笑みかけ、そしていつものように言ってやるのだ。


「おはようことみ。今日もいい朝だな」
「うん、おはようなの朋也くん」


 さぁ、それでは一日を始めよう。
 

なにか「良いもの」があって、それの良さを人に伝えたいのに、それに関する知識がなくてその良さを言葉にできない、そんな悲しさがあります。
なんて言ってみた理由は久々によい感じな音楽サイトを発見したので紹介しようと思ったからなのですけど、うーん、音楽については知識がないのでちゃんとしたお話が出来ないのが切ない。


「岸田教団.com」/岸田さま
(⇒ http://k-kyoudan.s61.xrea.com/
こちらにある「亡き王女の為のエクステンドアッシュ」というアレンジ曲がやばいくらいカッコいいです。
タイトル通り東方永夜抄EXテーマ曲「エクステンドアッシュ」と紅魔郷ラスボスのレミリアのテーマ曲「亡き王女の為のセプテット」のメドレー(?)風アレンジですが、うああ、これやばいですね、マジで!
前述の通り何がどうカッコいいとかそういうのは音楽知識が皆無なので語れませんが、とにかく本当に素敵です。
曲調としては激しい感じ、スピード感が凄い。
エクステンドアッシュからセプテットへの繋ぎ方とか見所(聞き所?)じゃないかなーと。
あと同サイトでもう一個公開されている東方のアレンジ曲「懐かしき東方の地」もかっこええです。


「さかばと」/通天さま
(⇒ http://tuutenn.s66.xrea.com/
こちらのサイトさんで紹介したいのは「 少女綺想曲 -Distortion Battle! -」というアレンジ曲です。
東方永夜抄の4面Aボスの博麗霊夢のテーマ曲「少女綺想曲」のアレンジですね。
この曲もやっぱり激しくてスピード感がある感じ、それと重低音(ベースなんだろうか?)が目立っててカッコいいです。
僕が重低音フェチというか腹に響きそうな感じのある曲が好きなので紹介した次第であります。
こちらのサイトさんにはもう2曲ほど東方のアレンジ曲が置かれているのですが、僕の家の回線がいきなりトロトロ速度になってDLに時間がかかりそうなのでまだ聴いてません、畜生なんでこんなときにっ!


サイトさんとしてはとりあえず上記二つ。
撃墜王決定戦(⇒ http://www.gekitsui.net/)」というゲーム音楽のアレンジイベントがあったらしく、そこからリンクして見つけたのですけど、上でも書いたように突如回線がトロトロになってしまいまだ全部聴けてない状態です、切ない。
まだネクロファンタジアとかのアレンジがあるのにー、くそー。


で、こういう風に色んなところのアレンジ曲とか聴いていると同人のアレンジCDとかにも手を出してみたくなるのが人の業とでも言うべきものでして、はい。
ああ、こんなことばっかりしてるエロゲを買うお金が無くなるんだよなぁ。
でもまぁしばらくの間はこの前終了した東方最萌トーナメント2に投下された支援音楽を聴いて過ごそうかと。
あの時期なにかと忙しくて試合結果だけみて肝心の支援とかは殆どスルーしてたんですよね、楽しみ楽しみ。